野球落語『オマリー寝床』
下手な義太夫語りの事を、「五色の声」、つまり「まだ青き 素(白)人浄瑠璃 玄(黒)人がって 赤い顔して 黄な声を出す」と言ったのは蜀山人だという。
ある長屋の大家、オマリー旦那もそんな類の一人。ただ彼の場合は義太夫ではなく、音痴な歌。それも『六甲おろし』。すぐ他人に聴かせたがるが、あまりにも音痴なので、長屋の店子たちは誰も聞きに来ない。だったら、せめてご馳走をして、ご機嫌をとろうと色々と準備をしてから店員の繁蔵を呼びに行かせたがやはり駄目。
提灯屋は開店祝いの提灯を山のように発注されてんてこ舞い、金物屋は無尽の親もらいの初回だから出席しない訳にはいかず、小間物屋は女房が臨月なため辞退、鳶の頭は成田山へお詣りの約束、豆腐屋は法事に出す生揚げやがんもどきをたくさん発注されて大忙しと全員断られてしまった。ならば、と店の使用人たちに聞かせようとするが、全員仮病を使って聴こうとしない。
頭に来たオマリー旦那は、長屋は全員店立て(たたき出すこと)、店の者は全員クビだと言って不貞寝してしまう。それでは困る長屋の一同、観念して旦那の『六甲おろし』を聴こうと決意した。
一同におだてられ、ご機嫌を直して再び語ることにしたオマリー旦那は、縦縞のユニフォームを着て、マイクのセッティングなど準備に取りかかる。その様子を見ながら一同、オマリー旦那の歌で奇病にかかったご隠居の話などをして、酔っ払えば分からなくなるだろうと酒盛りを始めた。
やがて始まったオマリー旦那の歌をよそに、酒が回った長屋の一同、全員居眠りを始めてしまう。我に返って気づいたオマリー旦那は激怒するが、何故か、丁稚の小林くんだけが泣いているのを見て機嫌を直した。何処に感動したのかと聞いてみるが、小林くんの返事は「みんなが寝ちゃって、自分の寝床が無かったんです」
しかし、日本語が不得手なオマリー旦那、小林くんが言う「寝床」の意味が分からず、勝手に感動していると思いこみ、「小林くんがイチバンやー」と叫び、そこから14曲連続で歌いつづけたという。これが世に言う「小林・オマリーの14曲」……
(ス)