「日本球界衰退論」に反論する
6日の朝日新聞朝刊に、こんな記事が載っていた。
WBCに浮かれる球界は衰退する
在米スポーツジャーナリストの古内義明氏へのインタビューである。
内容を要約すると、こんな感じ。
“WBCは、MLBのアジア市場戦略(人材面&興行面)のためのイベントであり、
そのWBCに連覇したといって熱狂している日本球界は、MLBの思うツボにはまっているのだ”
その主張自体に、異論はない。
WBCとは、まさに「MLBの、MLBによる、MLBのための身勝手な世界大会」にほかならない。
だから異論はないのだが、しかし、何か喉元あたりにひっかかるものがある。
とくにひっかかるのは、以下の箇所である。
「今のアマチュアの選手は『メジャー世代』です。彼らはWBCを見て『イチローや松坂のようになりたい』と思ったはずです。10年、20年後に振り返ると、『09年のWBCが日本球界衰退のターニングポイントだった』ということになるかもしれません」
まず、WBCの影響を「メジャー世代」という概念に結びつける理屈がおかしい。
WBCを見て「イチローや松坂のようになりたい」と思った若者は、確かにいるだろう。
しかし同様に、「岩隈や、ダルビッシュや、青木や、中島や、内川のようになりたい」
と思った人々もたくさんいるはずだ。さらにいえば、イチローや松坂にしても、
WBCで見ていたのはマリナーズのイチローやレッドソックスの松坂ではなく、
「日本代表のイチローや松坂」ではなかったか。
つまり、WBCがもたらした“効果”というのは
「JAPANのユニフォームを着てプレイする野球選手への憧れ」であって、
「メジャーへの憧れ」ではない。考えてみればすぐに分かることだ。
この種の「メジャーへの人材流出によって日本球界が衰退する」という理屈は
一見もっともらしく聞こえるのだが、日本野球をマジメに見ていれば、
そんな理屈は嘘だということがハッキリしている。
もし、その理屈が正しければ、95年の野茂渡米以降、
人材の流出は毎年進行してきたわけで、その間、日本球界はどんどん衰退しているはずだ。
しかし実際はその逆で、メジャーへの流出が始まって以降、
むしろ日本球界は活性化したのである。
とくに、野茂・イチロー・松坂という超看板選手が流出したパ・リーグは、
選手の質においても球場の活気においても、「95年以前」とは見違えるような変貌ぶりだ。
メジャーへの流出は、日本球界にとってのマイナスではない。
メジャーへ行きたい選手は、行けばいいのだ。
その分、若手が次々抜擢されて新陳代謝が促進され、野球が活性化する。
(現在のパ・リーグの若手投手たちを見よ!)
そして、イチローのようにメジャーで成功する選手がいれば、
「野球」の裾野が広がる。それは、日本球界にとっての最大のプラスである。
アメリカ目線で日本を見ていると、おそらく、そういうことが分からないのだ。
日本を心配するのも結構だが、その前に、MLBの衰退を心配したほうがいいんじゃないか。
イチローが27試合連続安打を記録した日(6月3日)、
セーフコ・フィールドの観客数は18,650人。
札幌ドームやKスタ宮城や千葉マリンのほうが、客が入ってるぞ。
(オースギ)