古典野球落語の第4弾です。「初芝浜」「三枚新庄」「シュートがこわい」に続きまして今回は野村克也を主人公にした「あくび指南」ならぬ「ぼやき指南」。なんだかもうネタバレしてますが……
「ぼやき指南」
町を歩く克也と息子カツノリの二人連れ、角のとある家に墨黒々と「ぼやき指南所」と書かれた看板があるのを発見。
「稽古所と言やぁ常盤津や長唄、茶の湯ってのが相場だが、『ぼやきの指南』ってのは珍しい。一つ入ってみようじゃねえか」
興味津々のカツノリ、対する克也は「つまらん真似を」と渋い顔だが、付き合いでカツノリともども件の「指南所」を訪れる。
「普段、みなさんのやっているぼやきは『駄ぼやき』と申しまして、一文の価値もありません。本来なら、人さまに失礼なものである『ぼやき』を、風流な芸事にするのが、この稽古場なんでございます」
師範はいかにも「老成した大家」風、そのもっともらしい講釈にカツノリは感心。側で見ていた克也は馬鹿馬鹿しさにはなから唖然とする。
「それでは、まず季節に因んだぼやきから始めましょう。ただいまは夏ですから、『夏のぼやき』から始めましょうか……」
お題。仙台あたりで、野球を観戦している場面を想像されたい。
「あなた、Kスタ宮城の観客です。8回まで勝ってたのに9回表にフェルナンデスのエラーでイーグルスが逆転されたシーンを思い浮かべてください」
扇子をバットにして、打ったボールがフェルナンデスのところに飛んだ気分を出して……
「こうやります。『おいホセさん、上手にキャッチしておくれ。あららら、トンネルだ。おいおい。草野球じゃねーかよ。ブツブツブツブツ……(と堂に入ったぼやきを入れる)』」
「へー、意外と面白いねぇ。えーと、『おい、ホセさん!!』」
「もっとゆっくり、いらついた声で」
「へぇへぇ。『おい、ホセさん!! 上手にキャッチしておくれ!!』」
無意味の極致のようなぼやき指南のやり取りがしばらく続く。
「おいおい。草野球じゃねーかよ。ブツブツブツブツ……」
あまりの阿呆らしさに、克也は驚きを通り越してあきれ返った。
「教わる奴も教わる奴なら、教える奴も教える奴だ……何が『草野球じゃねーかよ』だ! 散々待たされてるこっちの方が、よっぽどブツブツ言いたくなるよ。ブツブツブツブツ……」
克也、師範よりも堂に入った、見事に不機嫌なぼやき。
師範いわく「おやまあ、お連れさんのほうが器用だ」
(ス)